【債務整理】融資焦げ付きの損害賠償請求

病院
院長
同病院


主文

1 被告らは,原告に対し,連帯して,1億8000万円及びこれに対する平成14年11月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。
3 この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求

主文同旨

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第2 事案の概要

本件は,経営破綻したD商工信用組合(以下「D信組」という。)から債権等の資産を譲り受けた原告が,D信組の株式会社E(以下「E社」という。)及び有限会社F(以下「F社」という。)に対する各融資がいずれも回収不能となったが,上記各融資を実行したD信組の理事である被告らは,信用組合の理事としての善管注意義務ないし忠実義務に違反してD信組に損害を与えたとして,被告らに対し,中小企業等協同組合法(以下「中企法」という。)38条の2(ただし,平成13年法律第150号による改正前のもの。以下同じ。)に基づき,上記各融資による回収不能金額の一部の損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提となる事実(争いのない事実は証拠を掲記しない。)
(1) 原告
原告は,破綻した金融機関から買い受けた貸付債権その他の資産の管理,回収及び処分を行うこと等を目的とする株式会社である。
(2) D信組
D信組は,昭和28年5月,預金業務,融資業務,内国為替,送金,取立業務等を行うことを目的として設立された信用組合であり,小樽市等の後志支庁管内のほか札幌市,石狩市等を営業区域とし,地元中小零細企業の金融の円滑化,地域経済の発展に寄与することを目的に,営業を展開してきた。
D信組は,平成13年7月6日,預金保険法に基づき,金融庁に破綻処理の申請をした(甲5)。
(3) D信組における被告らの地位
ア 被告Bは,平成11年6月18日から平成13年7月16日までの間,D信組の理事長の地位にあった。
イ 被告Cは,平成12年3月当時の業務部担当常務理事であり,同年7月25日から平成13年7月16日までの間,専務理事の地位にあった。
(4) D信組における融資決裁
ア D信組が行う融資については,理事会規程8条17号により,理事会に決裁権限があるところ,理事長は,その決裁権限について,処務規程14条,15条に基づき,理事会の承認を得て貸出専決権者を決定することができるとされている。
イ 上記処務規程に基づき,平成12年当時において貸出専決権者に委譲された権限(ただし,貸出金に全信組連及び商工中金の代理貸付を含めた総貸出金から担保預金及び信用保証協会付を控除した貸出金に関するもの)は,以下のとおりである。
理事長     1億円まで
専務理事    5000万円まで
業務部担当理事 3000万円まで
(5) E社
E社は,昭和50年7月17日にホテルの経営等を目的として設立された株式会社Gホテルが平成11年10月26日にI開発振興株式会社に商号変更され,更に平成12年3月24日に現在の商号に変更された株式会社である。
Hは,同月16日にE社の代表取締役に就任した(甲12,13)。
(6) F社等
ア J株式会社(以下「J社」という。)は,昭和48年11月29日,個人向け住宅の建設を目的として設立された株式会社であり,昭和49年6月から,D信組との間で融資取引を行ってきた。
  KはJ社の代表取締役であり,Lは同専務取締役である。
イ F社は,平成12年3月29日,J社と同一の住所地(北海道小樽市mo丁目p番q号)において,Lを代表者,土木建築の請負業務,不動産の売買,仲介並びに受託管理業務等を目的として設立された有限会社である(甲49)。
(7) D信組のE社及びF社に対する融資
ア E社に対する融資
D信組は,別紙1の第1融資目録(対E社)記載のとおり,平成12年6月30日,E社に対し,1億円の融資(以下「本件第1融資」という。)を実行した(甲29)。
イ F社に対する融資
D信組は,別紙2の第2融資目録(対F社1)記載のとおり,平成12年5月1日から同年12月15日までの間,F社に対し,合計1億4460万円の融資(以下,これらを併せて「本件第2融資」といい,各融資については「本件第2融資@」などと示す。)を実行した(甲50ないし54)。
(8) 債権譲渡
ア D信組は,平成14年3月1日,預金保険法附則10条1項に基づき,預金保険機構の委託により,原告との間で資産買取契約を締結し,同月4日,同契約に基づき,D信組が有する損害賠償請求権(現在及び過去におけるD信組の役職員に対して責任を追及する一切の権利を含む。)等の資産を原告に譲り渡した。
イ D信組は,平成14年11月6日に被告Bに対し,同月7日に被告Cに対し,それぞれ上記債権譲渡の通知をした。
2 争点
(1) 信用組合の理事である被告らが負うべき注意義務の内容,程度
(原告の主張)
ア 信用組合の理事としての義務と責任
信用組合の理事は,信用組合との間の委任契約に基づき,職務を遂行するに当たり,受任者として善管注意義務を負うほか,法令及び定款の定め等を遵守し,信用組合のために忠実に職務を遂行すべき義務を負っている(中企法42条,商法254条3項,254条の3,民法644条)ところ,このような信用組合の理事の注意義務は,以下のとおり,信用組合業務の実情を考慮し,厳格に定められるべきである。
(ア) 健全性,安全性
信用組合は,多数の一般公衆から受け入れた預金を運用する金融機関である。
信用組合が特定の地域の経済や信用秩序の維持に重大な影響を及ぼすこと(事業の公共性)を考慮すると,健全な経営が確保されなければならない(協同組合による金融事業に関する法律(以下「協金法」という。)1条)。
また,預金者に対する預金の払戻しは確実に履行されなければならないから,預金の運用である融資は,回収を確実にする安全性が十分確保されていなければならない。
(イ) 法令遵守
信用組合の理事は,その職務を執行するに当たり,法令を遵守しなければならない。
信用組合においては,上記の健全性,安全性を確実にするため,大口信用供与限度額規制(以下「大口融資規制」という。)が設けられており(協金法6条1項,銀行法13条1項),これに基づき,信用組合基本通達(大蔵省銀行局長通達)により,同一人に対する貸出金の限度額が定められている。
大口融資規制の趣旨は,金融機関の融資対象を分散させることによって,金融機関の経営の危険分散を図り,大口融資先の経営破綻が金融機関の経営の安定性に波及することを阻止すること,金融機関の信用の適正分配,すなわち幅広く資金を分配して預金者ひいては国民経済の健全な発展に資することにあり,金融機関が特定企業,企業系列と深い関係になることを規律している。
したがって,大口融資規制に反する行為は,直ちに善管注意義務違反を構成する。
(ウ) 内部規定の遵守
信用組合が融資を実行するに当たっては,内部規定にも違反しないようにしなければならない。
D信組においては,融資の実行に当たり,融資金が使途以外に流用されないように注意すること,借入申込書には借入方法,申込金額,資金の必要時期,資金の使途,返済の資源,方法及び時期,担保及び保証人等を明確に記入させること,稟議書には融資先の業種を具体的に記入し,月商又は年間売上高並びに財務内容,預金及び貸出金等残高,不動産担保,保証人の状況,資金使途の種類,金額及び支払先,返済資源の金額,受入先及び入金予定日等を具体的に記入すること等の遵守事項が定められており,これらに違反して融資を実行してはならない。
イ 被告らの具体的注意義務違反の内容
以上を踏まえ,D信組の理事である被告らは,融資の実行を決裁するに当たり,具体的に次のような注意義務を負う。
(ア) 被告Bについて
被告Bは,D信組の理事長の地位にあった者であるから,理事長専決融資案件については決裁者として,また,理事会決裁案件については理事会の構成員として,融資の実行を審査,決定又は承認するに当たり,大口融資規制を始めとする法令,通達及び内部規定を遵守することはもとより,融資金の回収を確実にするため,融資先の財務状況,資産状況,経営体質,返済能力,融資金の使途,返済計画,事業計画等につき十分調査,検討を尽くした上で,明確な根拠に基づいて融資を実行し,確実な担保を徴求するなどして返済が滞った場合に対処するための万全の措置を講ずべき善管注意義務及び忠実義務を負っており,かかる義務に違反した場合には,これによって生じた損害を連帯して賠償すべき責任がある。
(イ) 被告Cについて
被告Cは,D信組の融資審査業務を担当する業務担当理事あるいは専務理事の地位にあった者であるから,理事会決裁案件については,理事会の構成員として,大口融資規制を始めとする法令,通達及び内部規定を遵守することはもとより,融資金の回収を確実にするため,上記(ア)同様の調査,検討を十分尽くした上で,明確な根拠に基づいて融資を実行しなければならず,返済が滞った場合にも同様に融資金の回収を確実にするため万全の措置を講じなければならず,また,理事長専決融資案件についても,問題のある融資案件については融資不相当の意見を付すなどして融資に反対すべき善管注意義務及び忠実義務を負っており,かかる義務に違反した場合には,これによって生じた損害を連帯して賠償すべき責任がある。
(被告らの主張)
ア 経営判断の原則
金融機関の理事の融資に関する判断は,理事の経営判断に属する事項として,その裁量が認められるべきであって,その判断に善管注意義務違反があるか否かは,諸事情に照らし,理事に与えられた裁量を明らかに逸脱しているか否かによって決せられなければならない。
イ 健全性,安全性について
信用組合は,一般公衆から預金を受け入れているのではなく,原則として,組合員から受け入れた出資及び預金を原資として組合員に貸付をする協同組織による相互金融の機関である。そして,組合員の資格は,信用組合の地区内において常時雇用する従業員が300人以内又はその資本の額ないし出資の総額が1億円以内の事業者と,同地区内に住所,居所を有する者又は地区内において勤務に従事する者で,定款に定められたもの(中企法8条4項)とされており,法令上取引先が地区内の中小零細企業及び勤労者に限定されている。
このように,法は,信用組合に対し,都市銀行,地方銀行等他の金融機関から借入をすることができない零細企業間の互助組織の機能を与え,互いに救済することを予定しているのであって,これは,銀行等他の金融機関にない特色であり,重要な機能である。
そして,信用組合の理事は,貸付をするに際し,当該企業の数字上の業績,担保の有無にとらわれることなく,当該企業,経営者及びその家族の経営状態,経営に対する姿勢等を総合的に判断して融資を実行するか否かを決しなければならず,回収可能性の程度も個別に判断されなければならない。
したがって,理事が健全性や安全性を確保すべき義務を負っているとしても,その違反が直ちに善管注意義務違反に当たるということはできず,理事の裁量の逸脱の有無を判断するに当たっては,前記のとおり,信用組合が零細企業を支援する機能を有していることも十分考慮されなければならない。
ウ 法令遵守義務について
大口融資規制の趣旨は,特定の取引先に融資が集中することを抑制することにより,信用組合の資産運用における安全性を確保するとともに,信用組合による資金供給の適正を期する点にあり,金融機関の健全性を確保する上で重要なものであるが,他方,規制の内容を柔軟に改変することができるように,同規制には多数の政令委任事項が含まれており,しかも,通達により解釈の変更が行われることが多く,また,違反した際の罰則が設けられていない。
したがって,大口融資規制は,法令による規制であるものの,行政による特例承認が認められているなど,その実質は行政指導を一般化,明確化したものであって,これに違反したことが直ちに善管注意義務違反となるものではない。
エ 内部規定の遵守について
D信組の内部規定は,理事以下職員に対する内部的な行為準則であるから,裁量の範囲の逸脱の有無を決する上での1つの判断材料となっても,これに違反したからといって直ちに善管注意義務違反となるものではない。
(2) 本件第1融資の実行に係る被告らの理事としての責任の有無
(原告の主張)
ア 本件第1融資の問題点
本件第1融資は,次のとおりの問題点を有するものであった。
(ア) E社の経済状況の調査が不十分であること
E社は,前身の株式会社Gホテルの時に,その主たる営業財産であるGホテルを売却したものであるところ,このことは,売却資金の融資を実行したD信組が当然認識していることであるから,本件第1融資を実行するに当たっては,同ホテル売却後の新たな経営状況を示す資料をE社から徴求するなどして,その経済状態を十分調査して融資の当否を判断すべきであった。
しかるに,D信組は,E社から2年前の株式会社Gホテル当時における財務内容を口頭で聴取したにとどまり,その内容が実態を反映していないことを明らかに認識していながら,現在の経営基盤が何であるか,その財務内容がどのようなものであるかを一切調査せず,決算書類の提出も受けずに融資を実行しているのであって,融資先の経営状況の調査を全く行っていないに等しい。
(イ) 資金使途の調査が不十分であること
本件第1融資の資金使途は,洞爺湖地区エイペックス買取りに係る調査費用という漠然としたものであり,これが真の資金使途を申告しているか否か,使途との関係で1億円が適正な金額であるのかなどを具体的に調査しなければならなかった。
特に,D信組は,本件第1融資に先立つ平成12年4月10日,E社に対し,一般企業不良資産買取り及び運営資金の一部金という極めて不明確な使途で1億円の融資を実行しているところ,同融資金は,3000万円がD信組への既存融資の返済に充てられたほか,融資実行日に3000万円が株式会社ホテルM(以下「ホテルM」という。)の他行口座に,その翌日に3770万円がH個人の他行口座に,それぞれE社のD信組の口座から送金されているのであって,融資金が上記使途どおりに使われていないことは明らかであり,その調査も容易であった。
このように,本件第1融資は,再度漠然とした資金使途で申込みがされたものであるから,これを実行するに当たっては,先行する上記1億円の融資金が実際にどのような不良資産の買取りに費消されたのかについて,念入りに調査した上で融資に応じるべきであった。
しかるに,D信組は,度重なる不明確な資金使途による融資申込みに対し,何ら調査することなく漫然と本件第1融資を実行した。
(ウ) 返済財源の調査が不十分であること
融資に際しては,返済財源及び返済方法が相当程度確実であるかについて,具体的に調査を実施しなければならない。
E社は,本件第1融資は政府系金融機関からの借入金を財源として返済すると申告していた。
しかし,前記のとおり,E社の経営実態は不明であり,決算書の提出もないことからすると,E社に対して政府系金融機関が融資するということはおよそあり得なかった。
このような裏付けの全くない他の金融機関からの借入を財源に掲げること自体,D信組がE社に返済財源がないことを自ら認識していることを物語っている。
D信組は,E社から同社が有限会社N総業から購入したOホテルの収支見込みの提出を受けたのみで,その余の金融機関との取引状況,融資受諾の可能性について,調査を全く行っていない。
(エ) 担保の徴求及び保証人の適格性の調査が不十分であること
E社の経営実態が不明確であり,返済財源も不明であることを考えると,十分な人的,物的担保をとり,保全措置を講じなければならないところであった。
しかるに,D信組は,E社に対する最初の融資について,その資金使途がOホテル取得に係る諸費用であるにもかかわらず,当該ホテルを入担させず,株式会社Gホテル当時に入担させた200万円程度の抵当価値しかない物件を担保とするのみで,新たな担保を一切徴求しないまま本件第1融資を実行した。
また,D信組は,平成11年10月22日付けで,連帯保証人であるHの信用調書を受け取っているが,そこに記載された住所は,本件第1融資当時既に差押後に売却されていた自宅であり,同人は保証人としての適格性を有していなかった。
同様に,連帯保証人となっているPについても,同人が役員となっているQ株式会社(以下「Q社」という。)が本件第1融資当時において経営危難にあったことからすれば,保証人としての適格性は認められないのであって,これらについてのD信組の調査は不十分であった。
被告らは,Hに関して不信を抱くような事情はなかったと主張するが,被告らがHを信頼できる人物と判断した根拠は,政治家の秘書ということや関係者等から紹介を受けたというものにすぎず,何ら客観的な根拠によるものではない。金融機関が融資の可否を判断する際に最も重視すべきは,債務者の返済能力を左右する財務内容に関する客観的資料と,資金使途や返済原資の客観的裏付け,回収に関わる担保物の客観的評価であり,これらを抜きに多額の融資を決定することは調査を欠いた融資といわざるを得ないのであって,被告らが主張するような事情だけで漫然とHを信頼できる人物と評価したというのであれば,金融機関の融資を決裁する立場にある者に課された注意義務を怠ったといわざるを得ない。
イ 被告らの注意義務違反
被告らは,本件第1融資には前記問題点が存在するにもかかわらず,これを漫然と見逃し,被告Bにおいては融資の実行を決裁し,被告Cにおいては不相当の意見を付すなどして融資に反対することをせずに融資決裁を放置したのであって,D信組に対する善管注意義務及び忠実義務に違反した。
ウ 損害の発生
本件第1融資の融資金1億円は,数度の手形書替が行われた後最終期限を徒過して現在に至っており,これまで返済は一切されておらず,今後の返済の見込みもない。
したがって,被告らは,前記注意義務違反によりD信組に1億円の損害を与えた。
エ 被告らの責任
以上のとおり,被告らは,D信組に対し,本件第1融資の実行につき1億円の損害賠償責任を負うから,原告は,被告らに対し,中企法38条の2に基づき,上記1億円のうち8000万円の支払を求める。
(被告らの主張)
ア 本件第1融資の適法性
本件第1融資は,次のとおりの事情を総合的に判断して承認,実行されたものであって,これを実行した被告らの判断に裁量の逸脱はなく,善管注意義務違反は存在しない。
(ア) H及び保証人等の信用調査
被告らは,本件第1融資を実行するに当たり,E社の代表者であるHと実際に面談し,経歴,現在の職業,Hの知人,関係者等の聴き取りを行い,Hがかつて故中川一郎の秘書を務めており,現在も政治家の秘書で三塚事務所の顧問であることを確認した。
また,Hの借入に当たっては,Pや元国会議員のRが連帯保証人となる予定であるなどの情報を収集した。
Pは,旭川市内でも有数のQ社の役員の一族であり,自らも同社の専務取締役やトヨタビスタ旭川株式会社及び株式会社旭川メディカルの役員を務め,不動産収入を含めた平成11年度の所得が1300万円超あり,固定資産を含めて9100万円の資産を有していたのであって,その社会的地位からも支払能力からも,保証人として申し分のない人物であった。
また,被告らがA商工信用組合(以下「A信組」という。)や小樽市関係者に確認したところ,両者からHは信頼に足る人物であるとの高い評価を得,さらには,PからもHの支援を要請された。
加えて,E社は,札幌市内に本社,旭川市内に支社を置き,株主には大同ほくさん株式会社,三菱地所株式会社,朝日火災海上保険株式会社,サッポロビール株式会社等そうそうたるメンバーが名を連ね,取締役にはHのほか,元札幌国税局人事部長のS,弁護士のTが,監査役には弁護士で足利銀行及び武蔵野銀行の顧問であるUがそれぞれ就任しており,Hに対する信頼を疑わせる事情は何ら存在しなかった。
(イ) E社等の既存債務の返済状況
D信組は,平成11年10月26日,Hが代表者を務めるV株式会社(以下「V社」という。)に対し,Gホテルの買取資金として1億5200万円の証書貸付をし,さらに,同日,同じく同人が代表者を務める株式会社W(以下「W社」という。)に対し,1億5000万円の証書貸付をしたが,本件第1融資を承認した平成12年6月29日の時点において,前者は元利約定弁済が継続しており,後者についても利息の支払がされていた。
また,D信組のE社に対する同年3月31日貸出の3000万円及び同年4月10日貸出の1億円は,いずれも短期で決済されており,これより2,3か月後の本件第1融資についても,上記返済実績から十分回収可能であると判断された。
(ウ) 資金使途の調査
本件第1融資は,当時その処分が社会的問題となっていた洞爺湖地区エイペックスの買取りに係る調査費用を資金使途とするところ,平成12年6月30日ころ,衆議院議員XがGホテルで開催された後援会において,出席者に対し,Hのことを将来エイペックスを経営する人物であると紹介し,さらに,このころ,札幌市手稲区民センターで行われたXの講演会において,Hがエイペックスの管財人と名刺交換をするなどしていたのであって,このような事情からすれば,その使途に疑いを挟む余地はなかった。
むしろ,本件第1融資は,当時において安心案件であるとの認識であり,被告らが調査した以上の調査義務はないというべきである。
また,前記のとおり,Hについて不信を抱かせるような事情は何ら存在しなかったことからすれば,被告らにおいて,E社の経営実態や同社に対する貸出金の事後の流れを調査すべき義務はなかった。
(エ) 融資金回収の確実性
前記のとおり,E社の株主がそうそうたるメンバーであること,エイペックスは当時道内の大きな社会問題となっており,大きく報道されていたことからすれば,このような社会的案件について,政府系金融機関が融資を実行する可能性は極めて高かった。
また,D信組のE社に対する本件第1融資に先立つ平成12年4月10日貸出の1億円は,短期間で決済されており,同社の株主,保証人,取締役のメンバーを考えると,本件第1融資の回収可能性は確実にあると判断された。
(オ) 本件第1融資の審査手続
D信組における融資の申込みから実行に至るまでの手続(貸付残高1億円以上)は,まず,融資の申込みを受けた本店営業部が稟議書を作成し,業務審査部がこれを審査した後,常務会,貸付審査会,理事会の各承認を経て,理事長がこれを決裁するというものである。
本件第1融資は,以上のとおり何重もの審査を経て承認されたものであり,これに異議を述べた者もいなかった。
(カ) 財務局の検査
本件第1融資を含め,D信組のE社,V社及びW社に対する各融資は,金融庁(財務局)の検査によって回収に懸念のある債権に分類されなかったばかりか,同局から何らの指摘も受けなかったのであるから,被告らがその回収につき具体的危険性を認識する事情は存在しなかった。
イ 損害の有無
(ア) 損害の不発生
本件第1融資は,現在1億円が未収となっているが,物的,人的担保からの回収不能が確定しておらず,D信組に同額の損害が発生しているとはいえない。
(イ) 因果関係の不存在
仮に,D信組に上記損害が確定的に発生しているとしても,前記のとおり,被告らに善管注意義務違反がない以上,被告らによる本件第1融資の実行と損害の発生との間には,因果関係が存在しない。
(3) 本件第2融資の実行に係る被告らの理事としての責任の有無
(原告の主張)
ア 本件第2融資の問題点
(ア) 無審査かつ安易な融資であること
平成12年9月29日から同年11月30日までに実行された本件第2融資BないしFは,F社が同融資金をJ社に対してつなぎ資金として交付し,J社が住宅金融公庫から注文者に対して実行される融資金をもってF社に返済することにより,F社のD信組に対する返済が可能になるかのごとき構造となっている。
しかし,公庫融資を見返りとする融資が担保として十分でないことは,既に過去のJ社に対する平成7年から平成10年までの融資により実証されていることに加え,そもそも平成7年2月の時点におけるD信組のJ社に対する対応策をみても,このような融資は実施しないことが確認されていた。
そうであるにもかかわらず,D信組は,これに反してJ社に対して融資を再開したばかりか,F社に対しても極めて安易に工事見合いの融資を継続してきた。
(イ) 資金使途が不透明であること
平成12年5月1日及び同月31日に実行された本件第2融資@及びAの資金使途は,不動産購入の前払金あるいは手付金とされているところ,F社は,売主に対して売買代金の残金を支払わなければ土地を取得できず,返済財源たる土地の売却も不可能となり,貸付金の返済も不能となる危険があるのであるから,D信組としては,F社が残金の支払原資をいかにして調達するのか,D信組において追加融資を要するか否かの検討が不可欠であった。
しかし,D信組は,同融資時はもちろん,事後においても,このような検討を一切していない。
前記融資による購入の対象となった土地は,一部第三者名義になったものを除き,今日においても,元の売主名義のままであり,とりわけ本件第2融資Aについては,売買の対象となった土地5筆中4筆が未だ所有権移転登記がされていない。
また,本件第2融資@及びAについては,その資金使途に応じ,本来土地所有者らに対して支払われるべきものであり,J社に対して資金移動がされる性格のものではないにもかかわらず,いずれも実行当日に,F社の普通預金口座からJ社の当座預金口座へ融資金の全額が移されている。
このような事情に鑑みると,本件第2融資@及びAは,J社の資金需要に応えたにすぎず,稟議書に記載された資金使途は正当なものと判断することはできない。
しかるに,被告らは,このことを知り,あるいは容易に知り得たにもかかわらず,同融資を実行した。
(ウ) 融資先の返済能力がないこと
本件第2融資は,いずれも無担保融資であるところ,融資先であるF社にさしたる財産はなく,営業実態をみても,J社の事業の一部を肩代わりしているにすぎず,実績が皆無である。
そして,前記(ア)及び(イ)記載のとおり,本件第2融資は,いずれもJ社に資金が流れているところ,J社が,平成12年当時において4億円を超える負債を抱え,D信組による条件変更によってかろうじて延滞を免れているにすぎない返済不能の状態にあったのであるから,融資実行の時点からその返済を受ける可能性は極めて乏しいことが明らかであった。
(エ) 大口融資規制に違反する迂回融資であること
J社は,平成12年3月,D信組に対する預金債権が第三者によって差し押さえられ,D信組との関係において期限の利益の喪失事由が生じていたのであるから,本来であれば残債務の一括償還をしなければならなかった。
その上,D信組のJ社に対する貸付残高は,大口融資規制の限度額(平成12年度は1億8600万円)を大きく上回る4億円超になっていたため,D信組としても,もはやJ社に対する新規融資を実行することはできなかった。
しかるに,D信組は,J社に対する債権の回収を棚上げにしたまま,急きょ設立された,J社の事業の一部を肩代わりしているにすぎないF社に対し,何らの保全措置を採ることなく回収の見込みのない融資を大口融資規制の限度額1億8600万円に達するまで繰り返していたのであり,これらの融資は,本件第2融資はもちろんそれ以外の融資もすべて実行当日にJ社の口座に移されている。
これらの事実に鑑みると,F社は,J社が大口融資規制の限度額を超過し,かつ,預金差押えという期限の利益の喪失事由が発生して,D信組において新規融資を実行し得ない状況下にあって,専ら資金需要者であるJ社のために資金融通を可能とするため設立された会社というべきであり,F社に対する融資は,すべて大口融資規制を潜脱する極めて悪質な迂回融資である。
被告らは,F社に対する融資は,既存債務の回収のために実行されたスキームであり,大口融資規制の潜脱を目的として行われたものではないと主張する。
しかし,金融機関があえて取引先の既存債務を回収するための融資(救済融資,支援融資)を行う場合,それは,取引先及び金融機関双方の正当な利益に資するものでなければならず,単に取引先の債務不履行を回避するため,救済又は支援と称して漫然と融資を続けることは許されない。
本件第2融資については,D信組において,これを実行することにより既存債務の回収が図られるとの検討がされた形跡はなく,具体的方策は何ら採られていないのであって,現実にその実行によりJ社の貸付残高が減少したとは認められないばかりか,F社に対する融資は,極めて短期間で大口融資規制の限度額に達する額の貸付残高を増やすに至っている。
したがって,本件第2融資が既存債務の回収のために実行されたものであるなどということはできない。
イ 被告らの注意義務違反
本件第2融資には前記問題点が存在するにもかかわらず,被告らはこれを漫然と見逃し,被告Bにおいては融資の実行を決裁し,被告Cにおいては不相当の意見を付すなどして融資に反対することをせずに融資決裁を放置し(本件第2融資@ないしB),又は融資の実行を決裁した(同融資CないしF)のであって,被告らはD信組に対する善管注意義務及び忠実義務に違反した。
ウ 損害の発生
(ア) D信組は,本件第2融資の実行により合計1億4460万円をF社に貸し付けたが,F社は,同融資Cについて300万円,同融資Eについて700万円の返済をしたのみで,いずれも最終期限が経過しているにもかかわらず,その余の返済はない。
また,今後の返済の見込みもない。
したがって,被告らは,前記注意義務違反によりD信組に1億3460万円(融資総額1億4460万円から返済総額1000万円を控除した額)の損害を与えた。
(イ) 被告らは,本件第2融資A,E及びFについて,いずれもF社の手持資金により既に返済済みであり,これにより同融資に係る損害は填補されているなどと主張する。
しかし,前記のとおり,本件第2融資は,大口融資規制を潜脱する目的で行われたJ社に対する迂回融資であって,J社とF社の2つの口座を利用してそれぞれの債務者の支払資金を捻出する操作が行われた結果,あたかも各債務者の手持資金をもって返済がされ,その限度で損害が填補されているかのような外観があるにすぎない。
F社においては,たまたま直接あるいはJ社を介して外部からの入金がされても,それらは,同融資A,E及びFの返済に充て得るほどのものではなく,その返済に充てた場合には,D信組から直ちにこれと同額又はそれ以上の額の融資を受け,F社あるいはJ社の預金残高を維持しなければならなかったのである。
そうすると,一時的に外部から入金された金員をもって同融資A,E及びFの返済に充てられたとしても,これにより同融資に係る損害が填補されたと評価することはできない。
(ウ) 仮に,本件第2融資A,E及びFについて,F社の手持資金により全額が返済されたと認められる場合であっても,その返済の直後に行われた別紙3の別件融資目録(対F社2)記載の各融資(以下,これらを併せて「別件融資」という。)による損害が現に生じている(なお,別件融資に係る融資の具体的問題点,被告らの注意義務違反の内容等については,前述した本件第2融資のそれと同様である。)。
別件融資の残高の合計は6220万円であるが,うち400万円については本件第2融資C及びDの返済に充てられており,この限度では損害が填補されているから,別件融資による損害額は,5820万円(本件第2融資A,E及びFの残高の合計額と同額)となる。
したがって,原告は,本件第2融資A,E及びFによる損害が填補されている場合に備えて,予備的に別件融資による損害の発生を主張する。
エ 被告らの責任
以上のとおり,被告らは,D信組に対し,本件第2融資の実行につき1億3460万円の損害賠償責任を負うから,原告は,被告らに対し,中企法38条の2に基づき,上記1億3460万円のうち1億円の支払を求める。
(被告らの主張)
ア 本件第2融資の適法性
本件第2融資は,以下のとおり,F社及びJ社の再建により既存債務の回収を図る目的でされたものであり,これを承認し,実行した被告らの判断は極めて適切であって,このことにつき,被告らに善管注意義務違反は存在しない。
(ア) J社に対する従前の融資と本件第2融資の関係
J社は,小樽市において実績を有する住宅建築,販売を主な業務とする建築会社であり,創業以来,不動産の購入資金,外注費等の仕入れ,事業運転資金をD信組からの借入によって賄い,仕事仕上がり後の代金支払によって借入金の返済を行うという業態で事業を展開させてきた。
その後,J社は,バブルの崩壊に伴い業績が思うように伸びず,D信組の貸出残高も拡大し,平成11年3月当時の貸出総額は,平成12年4月以降の大口融資規制の限度額1億8600万円を上回る3億円を超過し,D信組は,これ以上の額を融資することができない状態となった(なお,平成11年4月から平成12年3月までの間の大口融資規制の限度額は1億5500万円であり,同期間中のJ社に対する貸出総額も当時の大口融資規制の限度額を超過していたが,これについては当時の監督官庁であった北海道知事から特例承認を得ていた。)。
しかし,ここでJ社に対する融資を中止すると,同社は即倒産し,同社に対する既存債務が全額回収不能となり,D信組は多大な損害を被ることになるばかりか,組合員,その従業員や家族,取引先を路頭に迷わせ,また,J社の顧客であるユーザーにも莫大な損害が発生することとなる。
その反面,J社は小樽市内の老舗であり,同社の専務取締役であったLは,抜群の販売力を有していたため,これを生かして回収する方が,より多くの既存債務の回収を図ることができることは明らかであった。
そこで,J社から販売部門を切り離した上でこれを担う別会社を設立し,顧客に対する販売をその別会社が,建築をJ社がそれぞれ行うこととし,これにより販売利益と工事による利益を別立てにして経営の合理化を図るスキームが立てられ,F社は,顧客に対する販売を行う会社として設立された。
D信組は,前記のとおり,J社からより多くの既存債務の回収を図る目的でF社に対して本件第2融資を実行したのであって,これが合理性を有することは明らかである。
現に,J社及びF社は,平成12年3月から平成13年7月までの間,D信組に対する返済を継続しているのであって,D信組の破綻がなければ,確実に前記目的を達成していたことは明白である。
(イ) 本件第2融資が大口融資規制に違反しないこと
F社は,前記のとおり,J社とは独立した別会社であり,J社に対する既存の貸出金をより多く回収し,長期的には同社を再建し,ひいてはD信組の収益増加につなげるために設立された会社であって,そこには大口融資規制を潜脱するという目的は存在しない。
また,F社は,単なるペーパー会社ではなく,現に受注,販売を行い,J社は,請負工事を行っていたところ,このように会社の一部門を独立した法人としたり,あるいは系列の不動産販売会社と建設会社を有する例は,決して希有ではなく,むしろ一般的に認知された形態であって,このことをもって大口融資規制の潜脱に当たるということはできない。
(ウ) 北海道及び財務局の検査
D信組のF社及びJ社に対する融資は,北海道や財務局による当時の厳しい検査において,分類債権の評価を受けたことはなく,さらにはF社とJ社の関係についてもその問題性を指摘されたことはなかったのであるから,本件第2融資は,融資当時において,客観的にも大口融資規制に違反するものではなく,また,相当程度の回収可能性が見込まれる債権であった。
イ 損害の有無
(ア) 損害の不発生
a 本件第2融資A,E及びFは,F社の手持資金により既に返済済みであるから,同融資による損害は存在しない。上記返済後のF社に対する融資は,全く別の目的による新規融資であって,本件第2融資の切替えと評価されるものではない。
b 別件融資は,それぞれ住宅の外注費を資金使途としているが,いずれも注文主との間で実際に契約済みであり,同融資の申込みに当たっては,契約書及び住宅金融公庫への借入申込書控えが添付されているのであるから,同融資の実行につき被告らに善管注意義務違反はなく,また,これによる損害も発生していない。
(イ) 因果関係の不存在
損害額のいかんにかかわらず,前記のとおり,被告らに善管注意義務違反がない以上,被告らの本件第2融資の実行と損害の発生との間には,因果関係が存在しない。

第3 争点に対する判断

1 争点(1)(信用組合の理事である被告らが負うべき注意義務の内容,程度)について
(1) 信用組合の理事は,信用組合からの委任に基づき,善良なる管理者の注意をもって委任事務を処理すべき義務を負っており(中企法42条,商法254条3項,民法644条),これに違反してその任務を怠ったときは,組合に対し,連帯して損害賠償の責任を負うものとされている(中企法38条の2)。
この理事が負うべき注意義務の内容については,その与えられた職責に応じて判断されるべきところ,信用組合は,中小規模の商業,工業等の事業を行う者や勤労者が,相互扶助の精神に基づき協同して事業を行うため,これらの者の公正な経済活動の機会を確保し,もってその自主的な経済活動を促進し,かつ,その経済的地位の向上を図ることを目的とする組織(中企法1条,3条2号)であり,その組合員たる資格を有する者は,組合の地区内において商業,工業等の事業を行う小規模の事業者,同地区内に住所若しくは居所を有する者又は同地区内において勤労に従事する者で定款に定めるものとされ(同法8条4項),その事業内容は,組合員に対する資金の貸付,組合員のためにする手形の割引,組合員預金又は定期積金の受入れ等を行うものとされている(同法9条の8)。
信用組合の理事は,金融機関の運営を任された者として,専門的な判断を要求されることはもちろんであるが,信用組合は,地域経済の安定と発展を期するという使命をも有するものであり,公益的な要請による政策的考慮に基づく総合的な判断をすることが要求されているというべきである。
すなわち,信用組合の理事が融資を行うに当たっては,これにより組合が得るであろう利益と被るであろう損失の較量のみならず,地域社会に与える影響,将来における事情の変動の可能性を見越した総合的な判断が要求されるのである。
このような理事の判断については,その性質上,おのずと広範な裁量が認められているというべきである。
したがって,信用組合の理事が行った融資につき,結果としてこれが回収不能になったとしても,そのことだけで理事が直ちに善管注意義務に違反するとするのは相当でなく,これを判断するに当たっては,信用組合の理事一般に期待される知識,経験等を基礎として,当該融資判断の推論過程及び内容が不合理なものであるか否か,その前提となった情報収集,分析,検討が合理性を欠くものであるか否かによって判断すべきである。
(2) 原告は,信用組合の理事は,信用組合の健全性と安全性から,より厳格な善管注意義務を負う旨主張する。
確かに,信用組合は,協同組織による金融の発達を図るため,預金者その他の債権者及び出資者の利益を保護することが要求され(協金法1条),また,健全な経営を確保するため,銀行法の規定が一部準用され,銀行と同様の種々の規制を受けるとともに,監督官庁による各種監督に服するとされており(協金法6条),これらは,信用組合が一般私企業と異なり公益的な性格を有していることの現れということができる。
しかし,他面において,信用組合は,前記のとおり,相互扶助の精神に基づき,地域における小規模中小企業や勤労者の経済活動を支援することにより,地域経済の安定と発展を図る役割をも担っているのであって,このことからすれば,堅実で確実に回収が図れる収益性重視の融資案件だけではなく,経済基盤が必ずしも十分とはいえない零細企業に対し,将来性を見越した上で,その経済活動を積極的に支援していくために融資を行うことも,信用組合に期待されている活動の1つというべきである。
したがって,信用組合の健全性と安全性のみを強調し,信用組合の理事は一律に厳格な善管注意義務を負うとする原告の主張を全面的に容れることはできない。
(3) また,原告は,法令,特に大口融資規制に違反してされた融資は,直ちに善管注意義務違反に当たると主張する。
信用組合の理事は,その業務の執行に当たり,法令を遵守すべきことが求められているのであって,理事が組合をして違法行為を行わせた場合には,その規定の名宛人が理事であるか組合であるかを問わず,原則として任務懈怠行為に該当すると解される(最高裁平成12年7月7日第2小法廷判決・民集54巻6号1767頁参照)。
そして,大口融資規制は,融資が特定の融資先に一極集中することを抑制することにより,その貸倒れリスクを分散させるなどの意義を有しており,金融機関の資産運用における安全性を確保するとともに金融機関による資金供給の適正を期する上で重要な規制である。
しかし,これを過度に要求すると,経済の実情に反してその発展を阻害することにもなりかねず,このようなことから,一定の場合において大口融資規制の例外が認められている(銀行法13条1項ただし書)。
そうすると,大口融資規制に違反したことのみをもって直ちに善管注意義務違反に当たると解するのは相当でない。
したがって,原告の上記主張をそのまま採用することができない。
もっとも,前記のとおり,大口融資規制は原則的に遵守されるべきものであり,理事は,これに従ってその職務を行うことが求められているのであるから,同規制に違反する融資判断は,理事の善管注意義務違反の有無を判断する上での1つの大きな考慮事情になるというべきである。
(4) なお,信用組合における内部規定について,理事は,これを遵守してその職務の執行に当たるべきであるが,前記のことからすれば,その違反が直ちに善管注意義務違反に当たるものではなく,これを判断する上での1つの考慮事情になるというべきである。
2 争点(2)(本件第1融資の実行に係る被告らの理事としての責任の有無)及び同(3)
(本件第2融資の実行に係る被告らの理事としての責任の有無)について
(1) 事実認定
  証拠(甲1ないし6,10ないし95,乙1ないし7,10ないし17,被告B,被告C。
なお,後記各項目における認定事実について,その主な証拠を後掲する。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア D信組の業況,経営方針,破綻に至る経緯等(甲1ないし6,10,11,95,乙1,10,11,15ないし17,被告B,被告C)
(ア) D信組(平成11年以降の組合員数約1万2900名)は,昭和28年の創業以来,地域における事業者及び勤労者の資金調達を目的に相互扶助を基本とする中小企業専門の協同組織金融機関として,預金業務,貸出業務,内国為替業務等を行ってきたが,近年において業績が悪化し,平成9年度(平成10年3月期)には,それまでの経常利益が損失(マイナス4億4263万7000円)に転じ,平成10年度(平成11年3月期)には,経常利益マイナス22億1435万円,当期利益マイナス13億5030万円,当期未処分利益マイナス11億8119万円,自己資本比率2.11パーセントとさらに業績が落ち込んでいった。
このような業績悪化から,D信組は,平成11年6月11日,当時の監督官庁である北海道知事から早期是正措置命令を受けた。
(イ) D信組は,上記早期是正措置命令を受け,平成11年7月12日,自己資本比率の国内基準(4パーセント)達成のための諸施策を盛り込んだ経営改善計画書を作成し,平成14年3月までの3か年計画を策定した。
同計画書には,経営基本方針として,自己責任原則(コンプライアンス体制の構築),各種法令遵守,基本基盤の強化(預貸金の増強,経費の削減等),経営の効率化(店舗の統廃合),経営管理,人事管理,資産管理(融資実行後の貸出条件の履行状況,資金使途の確認,事業計画の遂行状況等の事後管理を含む。)等が掲げられた。
また,具体的な経営改善計画として,平成11年度(平成12年3月期)には,業務純益4億7400万円,経常利益マイナス2億2800万円,当期利益マイナス1億6000万円,当期未処分利益マイナス13億4100万円,自己資本比率2.58パーセント,平成12年度(平成13年3月期)には,業務純益7億2300円,経常利益マイナス8200万円,当期利益マイナス500万円,当期未処分利益マイナス13億4600万円,自己資本比率3.12パーセント,平成13年度(平成14年3月期)には,業務純益7億0900万円,経常利益6億0800万円,当期利益4億9900万円,当期未処分利益マイナス8億4700万円,自己資本比率4.78パーセントを達成することを目標とした。
(ウ) D信組は,平成11年度(平成12年3月期)に,経常利益マイナス4億4707万円,当期利益マイナス4億0523万円,当期未処分利益マイナス15億8642万円を計上し,自己資本比率は2.61パーセントとなった。
(エ) D信組の監督官庁は,平成12年4月,北海道知事から金融庁長官(北海道財務局長)に移行された。
これにより,D信組は,同年7月から,財務局の検査を受けることとなり,これまでの資産評価の基準(D信組の専門委員会が策定した自己査定基準書)と異なる基準(金融検査マニュアル)によって資産評価を受けることとなった。
(オ) D信組は,上記財務局の検査結果を踏まえ,平成12年度(平成13年3月期)の決算を公表した。その内容は,経常利益マイナス35億7320万円,当期利益マイナス52億9866万円,当期未処分利益マイナス68億8508万円というもので,自己資本比率はマイナス19.31パーセントであった。
(カ) D信組は,上記平成12年度の決算を公表した後,預金の流出が始まり,総代会が開催された平成13年6月28日の時点において預金残高が33億円程度にまで落ち込み,その後も預金の流出が加速するなどしたため,同年7月6日,預金保険法に基づき,金融庁に破綻処理の申請をした。
(キ) D信組の大口融資規制による貸出限度額(単体)は,平成元年度から平成8年度までの間が約3億円,平成9年度が4億2700万円,平成10年度前期(同年4月1日から同年11月30日までの間)が5億3400万円,同後期(同年12月1日から平成11年3月31日までの間)が4億5300万円,平成11年度が1億5500万円,平成12年度が1億8600万円であった。
(ク) D信組は,事務規定(融資編)により融資業務に係る内部規定を定めているところ,これによると,融資取引においては,取引先の資格は重要な事項とされ,取引先の法律上の性格,行為能力,代理者等をよく確かめなければならないとされている。
また,融資の申込みがあったときには,借入申込書に借入の方法及び申込金額,資金の必要時期,資金の使途,返済の資源,方法及び時期,担保及び保証人等を明確に記入させるとともに,新規の取引先については,さらに取引先の資格,行為能力及び代表者等を確認するために必要な書類,過去3か年以上の営業報告書及び最近の試算表,事業の沿革,概要を記入した書類の提出を受けなければならず,その上で,D信組において,借入申込書に記入された事項を十分調査し,所定の審査資料を整備して稟議書を作成し,これを本部に提出してその承認を得てから融資を実行しなければならないとされている。
イ D信組のV社及びW社に対する融資(甲12,13,16ないし20,30ないし33,38,66ないし69,77ないし80,乙1,10,11,被告B,被告C)
(ア) 株式会社Gホテル(E社の前々の商号)は,昭和51年ころ,小樽市内において,Gホテルを取得したが,その後,業績不振に陥り,負債整理のために同ホテルを処分せざるを得ない状況となった。
なお,D信組は,株式会社Gホテルに対し,過去に融資を行っていた関係で,小樽市yにある同社所有の不動産(平成12年当時の時価は約200万円で,後に1000万円に評価替えされた。)につき第1順位の根抵当権を有していた。
(イ) このような状況の中,D信組は,平成11年10月22日,V社(平成7年7月18日設立)及びW社(平成5年6月24日設立)の代表者であるHから,Gホテルの買取資金等の融資の申込みを受けた。
D信組は,既に同ホテルの所有者である株式会社Gホテルに対して多額の融資(平成8年当時2億2000万円程度の延滞が発生し,平成11年3月31日時点では,同社に対する貸出金の7500万円余りが回収に懸念のある債権としてV分類に位置付けられていた。)をしており,その債権を正常化させる必要があったこと,同じく同社に多額の融資をしていたA信組から協調融資の申出があったこと,政治家の秘書を務めていたというHの人物像や信頼性に疑いを抱かなったこと等から,平成11年10月26日,V社に対してGホテルの買取資金として1億5200万円,W社に対して同ホテルの賃貸に基づく保証金として1億5000万円の各融資(証書貸付)を実行した。上記各融資については,同ホテル及びその敷地等について抵当権が設定され,Hほか1名が保証人となった。
なお,Hは,当時までホテル経営の実績はなかった。
D信組は,V社に対する上記融資につき,同社から,同社の平成10年度(平成11年3月期)の決算報告書の提出を受けたが,これによると,同社は,同年度において,給料を全く支払っておらず,営業収入もなく,当期利益がマイナス13万0264円,当期未処分利益がマイナス428万0981円という状態であった。
また,D信組は,W社に対する上記融資に当たり,同社から同社の決算報告書の提出を受けることなく,これを実行した。
(ウ) D信組のV社に対する上記融資は,本件第1融資が実行された平成12年6月30日の時点において,元利金の約定弁済が継続されていた。
また,D信組のW社に対する上記融資は,同時点において,利息の約定弁済が継続されていた。
(エ) D信組は,上記各融資のほか,平成12年6月26日,V社に対してホテル内装,改装工事代金等として3700万円,W社に対して買掛金等として3300万円の各融資(手形貸付)を実行した。
ウ D信組のE社に対する融資(甲14,15,21,22,27ないし29,34の1ないし3,甲35ないし37,70,71,乙10,11,被告B,被告C)
(ア) D信組は,平成12年3月31日,E社に対し,Oホテル取得に係る諸費用として3000万円の融資(手形貸付)を実行した。
同融資の実行に当たり,平成10年3月31日現在のE社(当時の商号は株式会社Gホテル)の業務純益はマイナス1億0986万6000円と報告されたが,同日以降の同機構の財務内容を示す資料は提出されなかった。
D信組は,新たな物的担保を徴求しなかったため,物的担保は株式会社Gホテル時代に入担された小樽市y所在の不動産(時価約200万円)しかなく,約2800万円が担保割れの状態となった。また,H及びPが保証人となったが,Hが信用調書等に記載した同人の東京都世田谷区x町e丁目bd番地d所在の自宅は,既に差押後に売却されており,Hは,融資の実行時に上記自宅を所有していなかった。
(イ) D信組は,平成12年4月10日,E社に対し,同社が同年4月7日付けで提出した資金使途を「一般企業不良資産買取会社立上げ運転資金」とする借入申込書による融資申込みに対し,1億円の融資(手形貸付)を実行した。
その際に検討されたE社の財務内容,入担状況,保証の内容等は,先の同年3月31日実行の3000万円の融資の時と同様であった(なお,担保不動産については,時価が約200万円から約1000万円に評価替えとなった。)。
しかし,上記1億円の融資金は,うち3000万円が先の同額の既存債務の弁済に充てられ,うち3000万円が同日中にホテルMの口座に振り込まれ,うち3770万円が翌11日にH個人の口座に振り込まれた。
なお,ホテルMは,平成8年6月に不渡事故を起こし,当時,D信組の常務理事らが調査,検討した結果,金融機関からの支援続行は全く不可能な状況であるとの見解が得られていた。
(ウ) E社は,平成12年6月29日,D信組に対し,使途明細欄(「具体的にご記入ください」と記載されている。)に「洞爺湖地区エイペックス買取に係る調査費用」,返済財源(詳細)欄に「政府系金融機関よりの借入にて決済」と記載し,返済期日を同年10月2日(期限一時払)とする金額1億円の借入申込書を提出した(なお,同申込書の備考欄には「資金使途が判明できるような書類又は資料をなるべく添付して下さい」との印刷文言がある。)。
  D信組は,上記申込みに応じ,同年6月30日,E社に対し,本件第1融資(資金使途を洞爺湖地区エイペックス買取りに係る調査費用とする1億円の手形貸付)を実行した。その際に検討されたE社の財務内容,入担状況,保証の内容等は,先のE社に対する2件の融資(同年3月31日実行の3000万円の融資及び同年4月10日実行の1億円の融資)の時と同様であった(なお,担保不動産の時価は,同年4月10日実行の融資に係る評価と同じであった。)。
D信組は,本件第1融資を実行するに当たり,当時においてエイペックスの処分が社会的問題となっており,これに対して他の政府系金融機関が融資をするものと考えられたこと,衆議院議員のXがGホテルで開催された後援会において,同人がHのことを将来エイペックスを経営する人と紹介していたこと,Hがエイペックスの破産管財人と思われる人物と面談していたこと等の事情から,その資金使途,返済財源,担保力等に特段の疑問を感じず,全面的にこれを信頼した。
しかし,E社が提出した借入申込書に資金使途として掲げられている調査費用については,同社が具体的に何を調査し,どのような調査費がかかるのかなどが一切明らかにされておらず,返済財源についても,いつ,どのような制度に基づいていかなる政府系金融機関が融資を実行するかさえ定まっておらず,保証人の住居等の権利関係を示す不動産登記簿謄本等の資料も提出されていなかった。
また,Hが担い手となるとされるエイペックス事業自体についても,同人がいかなる構想を抱き,事業収支をどのように考えているのかを示した事業計画案等は提出されておらず,同事業の着手時期についてすら検討されていなかった。
E社は,現在,D信組に対し,本件第1融資による1億円の弁済をしていない。
エ D信組とHの関係(甲23ないし26)
(ア) Hは,平成12年5月31日,緊急に開かれた理事会の承認を得て,D信組の顧問に就任した。任期は平成14年6月18日まで,顧問料は月額10万円とされた。
(イ) Hは,D信組の顧問として,平成13年3月26日及び同年5月28日開催の理事会に出席し,組合の現状や今後の見通し等の意見を述べた。
(ウ) Hは,平成12年7月31日から平成13年6月29日までの間,D信組から,上記顧問料に相当する額の支払を受けていた。
オ D信組のJ社に対する融資(甲40ないし48,74ないし76,82,83,乙2,10,11,被告B,被告C)
(ア) D信組は,昭和49年6月から,J社に対する融資取引を開始し,融資に係る事業の売上,利益によって返済を受け,あるいは,不足分の運転資金を貸し出し,その後の売上によって返済を受けるという形態で取引を行ってきたが,平成初期ころのいわゆるバブル経済の崩壊に伴って業績が伸び悩み,貸出残高(平成6年当時約2億5000万円)が拡大していった。
(イ) J社は,平成6年8月,借入金の返済財源を一部流用するなどしたため,D信組に対する約定返済ができない状況に陥った。
このような事態の展開により,D信組は,平成7年2月16日,J社に対する今後の支援は不可であるとの認識を持つに至り,具体的対応策として,@担保外のものも含め,定期預金,定期積金と貸付金とを相殺し,相殺後残額をもって長期貸付金に切り替える,A今後の業況,決算内容返済等の改善が堅実に見受けられ,確実な保全強化と返済財源ができない限り,工事見合いによる運転資金の支援には一切応じない,B上記長期貸付金につき追加担保を徴求するとの方針を打ち出した。
なお,上記Aの対応策は,D信組において平成6年7月21日付けで各営業店長に発せられた「工事代金等を返済財源とした融資の対応について」と題する事務連絡に基づくものであり,これによると,工事代金は担保ではなく,あくまでも返済財源でしかないこと,契約書を徴求できないもの,見積段階で工事未着工のもの等は今後とも原則的に取扱いを不可とすること,住宅金融公庫及び住宅ローン融資の窓口が他金融機関取扱いの見合融資は今後とも避けるべきこと,公庫融資の中間資金交付等に変化が発生した場合には,融資先からの事情聴取,工事現場の確認等を実施することによりその妥当性を把握し,融資金の回収にはより細心の注意,報告,再協議,保全強化を図るべきことが指摘され,資金使途の徹底追及,返済財源の確保,返済条件の履行に対する誠意,能力等の見極めが重要であると確認されている。
D信組は,平成7年2月28日,上記@の対応策に基づき,J社の担保外を含めた定期預金及び定期積金の総額約6000万円をもって貸付金と相殺し,相殺後の残金2億1360万円を一本化して長期貸付に切り替えた。
(ウ) しかし,D信組は,平成7年5月以降,J社に対し,再び融資を開始してこれを継続するようになり,貸付残高は,融資再開当初は2億円前後で推移していたものの,平成9年後半から平成10年前半にかけての約1年間で約4億円にまで増加した。
D信組は,上記融資につき,手形の書替をすることにより延滞を発生させないようにし,貸付残高は,平成11年3月期まで大口融資規制の貸出限度額(当時4億5300万円)を超えない範囲の額で推移していたが,同年4月以降,同規制による貸出限度額が1億5500万円に引き下げられたことから,J社に対する融資残高がこれを超過することになり,対応策に追われることとなった。
そのため,D信組は,同年8月26日,当時の監督官庁である北海道知事に対し,貸出限度額の超過承認申請をし,同知事は,同年9月17日,協金法6条1項,銀行法13条1項ただし書に基づき,承認期間を平成12年3月31日までとするとの条件付きで,同申請を承認した。
(エ) J社は,D信組に対する預金債権が平成12年3月16日に第三者によって差し押さえられたため,D信組との間の信用組合取引約定に基づき,期限の利益を失い,D信組に対する既存債務全額を直ちに弁済しなければならない事態となった。
(オ) J社の平成11年1月1日から同年12月31日までの間の決算は,経常利益がマイナス4704万8086円,当期利益がマイナス4725万4086円,当期未処分利益がマイナス4342万7186円であった。
(カ) D信組は,平成12年9月ころ,J社に対する貸出金について,J社の資金繰り難から元金を1年間据え置く措置を採り,約定弁済を一部変更した。
(キ) D信組のJ社に対する融資残高は,3億8559万円(平成15年1月21日現在)である。
カ D信組のF社に対する融資(甲49ないし65,72,73,81の1ないし22,甲84ないし94,乙3ないし7,10ないし14,被告B,被告C)
(ア) J社の専務取締役であったLは,平成12年3月29日,J社が建築した住宅の販売代理業者として,F社を設立した。
F社は,創業以来,J社との間において継続的取引をする一方,以下のとおり,D信組から借入をし,これをJ社の資金需要に充てていた(なお,後のD信組の理事会において,F社とJ社が一体ではないかとの疑問を呈する監事もいた。)。
(イ) D信組は,平成12年3月31日,F社に対し,新規事業開設運転資金として,手形貸付2000万円と証書貸付1000万円の合計3000万円の融資を物的担保をとらずに実行した。
同融資の返済財源は請負工事代金によるものとされ,1000万円の証書貸付についてはYが保証人となった。
なお,D信組は,上記融資に先立つ同年1月31日,Yに対し,外注費支払資金として3000万円の融資(手形貸付)を無担保で実行したところ,同日中に,YからJ社に対して2950万円が振り込まれ,同年2月15日に約1500万円が入金されるまでの間に上記振込金のほぼ全額がJ社の決済資金に充てられた。
そして,D信組は,上記Yに対する手形貸付金の返済期限とされていた同年3月31日にF社に対する上記3000万円の融資を実行したところ,その融資金は,全額が同日午後3時54分に現金で払い戻され,同日同時刻に同額がY本人から同人の口座に振り込まれ,同日,Yは,同人のD信組に対する上記3000万円の手形貸付金を弁済した。
(ウ) D信組は,平成12年5月1日,F社に対し,本件第2融資@(土地仕入資金として2000万円の手形貸付)を無担保で実行した。同融資によりF社に支払われた金員は,同日,J社の口座に振り込まれた。
D信組は,同融資の決裁資料として,F社から,仕入れの対象となる土地(小樽市rs丁目t番u)の売買契約書,同土地の全部事項証明書,固定資産評価証明書,地積測量図,物件概要を記した書面等の提出を受けたが,同土地は,現在,F社の所有名義を経ることなく第三者の所有名義となっている。
(エ) D信組は,平成12年5月15日,F社に対し,土地測量,分筆費用等として350万円の融資(手形貸付)を無担保で実行した。同融資によりF社に支払われた金員は,同日,J社の口座に振り込まれた。
  同融資の返済財源は,土地売却代金によるものとされた。
(オ) D信組は,平成12年5月31日,F社に対し,本件第2融資A(不動産購入前払金として2000万円の手形貸付)を無担保で実行した。
同融資によりF社に支払われた金員は,同日,J社の口座に振り込まれた。
D信組は,同融資の決裁資料として,F社から,同社の定款,購入物件である土地5筆(小樽市vs丁目dfb番zaa,同dhi番zz,同dhi番ze,同dhi番zf,同dhi番zi)の売買契約書,同土地の全部事項証明書,課税資産明細書等の提出を受けたが,これらの土地のうち1筆(小樽市vs丁目dhi番地zz)は,現在,F社の所有名義を経ることなく第三者の所有名義となっており,残り4筆は,依然として当初の売主の所有名義のままである。
(カ) D信組は,平成12年9月29日,F社に対し,本件第2融資B(3宅工事着手準備金のJ社に対する立替金として2000万円の手形貸付)を無担保で実行した。
同融資によりF社に支払われた金員は,同日,J社の口座に振り込まれた。
D信組は,同融資の決裁資料として,F社から,3宅(甲,乙,丙の各宅)
のマイホーム新築資金借入申込書等の提出を受けた。
(キ) D信組は,平成12年10月16日,F社に対し,本件第2融資Bに係る3宅の外注費等として7000万円の融資(手形貸付)を無担保で実行した。
同融資によりF社に支払われた金員は,同日,J社の口座に振り込まれた。
  同融資の返済財源は,J社が受領する住宅金融公庫等からの融資金及び土地売却代金によるものとされた。
(ク) D信組は,平成12年10月31日,F社に対し,本件第2融資C(同融資Bに係る3宅の外注費として2180万円の手形貸付)を無担保で実行した。
同融資によりF社に支払われた金員は,同日,J社の口座に振り込まれた。
D信組は,同融資の決裁資料として,F社から,同社の事業計画書,収支実績及び計画が記された書面の提出を受けた。
(ケ) D信組は,平成12年11月15日,F社に対し,本件第2融資D(同融資Bに係る3宅の外注費として1760万円の手形貸付)を無担保で実行した。
同融資によりF社に支払われた金員は,同日,J社の口座に振り込まれた。
D信組は,同融資の決裁資料として,F社から,同社の事業計画書,収支実績及び計画が記された書面の提出を受けた。
(コ) D信組は,平成12年11月15日,F社に対し,諸経費支出資金として160万円の融資(手形貸付)を無担保で実行した。
同融資によりF社に支払われた金員は,同日,J社の口座に振り込まれた。
同融資の返済財源は,売上金等によるものとされた。
(サ) D信組は,平成12年11月30日,F社に対し,本件第2融資E(2宅の外注費として2740万円の手形貸付)を無担保で実行した。
同融資によりF社に支払われた金員は,同日,J社の口座に振り込まれた。
D信組は,同融資の決裁資料として,F社から,上記2宅のうち1宅(丁宅)の工事請負契約書等の提出を受けた。
(シ) D信組は,平成12年12月15日,F社に対し,本件第2融資F(2宅の外注費として1780万円の手形貸付)を無担保で実行した。
同融資によりF社に支払われた金員は,同日,J社の口座に振り込まれた。
D信組は,同融資の決裁資料として,F社から,上記2宅のうち1宅(丁宅)の工事請負契約書等の提出を受けた。
(ス) 本件第2融資Fが実行された後のD信組のF社に対する融資総額は,1億8591万7729円となり,当時の大口融資規制による貸出限度額(1億8600万円)をほぼ満たしたことから,D信組において,これ以上F社に対して追加融資をすることが許されない状況となった。
そこで,D信組は,以後,新規貸付の体裁を取りながら,既存の手形貸付の切替えを行っていった。
(セ) D信組のF社に対する融資残高は,1億8460万3613円(平成15年1月21日現在)である。
(ソ) F社は,D信組に対し,本件第2融資Cについて300万円,同Eについて700万円を支払ったが,その余については,現在までに弁済していない。
(2) 本件第1融資と被告らの責任
  上記認定事実及び前提となる事実を基に,まず,本件第1融資の実行に係る被告らの理事としての責任の有無(争点(2))について検討する。
ア 本件第1融資は,D信組が,平成12年6月30日,E社に対し,同社が行おうとしている事業の買取りに係る調査費用として1億円を融資し,その返済財源として,E社が受領する予定の政府系金融機関からの融資金や同事業の進展に伴う利益等を見込んでいたものである。
そこで,その融資判断の当否を判断するに当たっては,融資先の業況及び業務内容,資金使途の内容,返済財源の確実性及び回収可能性,担保の程度等が重要であるので,以下検討する。
(ア) 融資先の業況及び業務内容
D信組は,本件第1融資の融資先であるE社との間で平成12年3月31日から取引を行い,本件第1融資に至った。
しかし,E社は,株式会社Gホテルが平成11年10月26日にI開発振興株式会社と商号変更し,更に平成12年3月24日に現商号への商号変更をした会社であって,株式会社Gホテルの時代から既にD信組との間で取引を行ってきた経緯があった。
そして,株式会社Gホテルは,業績不振による債務整理の必要から,その営業財産であるGホテルを手放さざるを得ない状況となり,平成11年10月,同ホテルをV社に売却したもので,当時既に,株式会社Gホテルの経営が相当悪化していたことは,客観的に明らかであった。
このことは,同社との間で取引があったD信組においても十分認識しており,同社に対する貸出金の一部が分類査定を受けるなど,もはや同社に対して追加融資を実行することができない状況となっていた。
E社は,上記のような状況にあった株式会社Gホテルと同一の法人であり,Gホテルの売却や役員の変更等の事情の変動があったにせよ,基本的には,株式会社Gホテル時代における会社の目的,資本の額(甲12,13),債権債務等の資産,企業体質,経営方針等を引き継いでいるものである。
したがって,D信組において,このような会社と再び取引を行うに際しては,その経営状態に疑いを持ち,十分に調査,検討をした上で,その当否を判断する必要があったというべきである。
しかるに,D信組は,商号変更直後のE社に対し,平成12年3月31日にOホテル取得に係る諸費用として3000万円を融資して取引を再開し,同年4月10日の1億円の融資を経て,同年6月30日に本件第1融資を実行するに至った。
そして,これらの各融資の際,E社の財務内容が報告されたものの,それは融資よりも約2年前の株式会社Gホテルに関する情報であって,これが融資当時における適正な財務内容を示していたとはいい難い上,その内容をみても,業務純益がマイナス1億円超であるなど経営難をうかがわせるものであった。
このような状況であったにもかかわらず,D信組は,E社あるいは前商号のI開発振興株式会社における直近の財務内容を調査しなかったばかりか,口頭による報告で調査を済ませ,決算書等の客観的な資料の提出すら求めなかったのであって,その融資に関する調査及び検討は甚だ不十分であった。
(イ) 資金使途の内容
金融機関が資金を融資するに当たって,その融資金がどのような使途に用いられるかは,融資金の回収可能性を検討し,融資を実行するか否かを決するために把握すべき重要な情報であることは明らかであり,D信組においても,前記認定のとおり,借入申込みに当たっては,資金使途を具体的に明らかにすることを求めている。
本件第1融資の借入申込書に記載された資金使途は,エイペックス買取りに係る調査費用という極めて漠然としたもので,1億円もの多額の費用をかけて行うとされた調査の対象,方法,実施時期及び期間,費目等については何ら具体的に明らかにされていなかった。
加えて,E社は,本件第1融資に先立つ同年4月10日,「一般企業不良資産買取会社立上げ運転資金」を資金使途として,D信組から1億円の融資を受けていたが,その融資金のうち3000万円をD信組に対する既存債務の返済に充て,3000万円をD信組において貸出不可とされていたホテルMの口座に振り込み,3770万円をH個人の口座に振り込んで,上記借入申込みに当たって示した使途とは全く異なる使途に費消した前例を有しており,D信組は,そのことを認識し又は容易に認識することができた(これを認識していなかったとすれば,怠慢というほかはない。)。これらのことからすれば,D信組は,その後にされた本件第1融資の申込みに対しても,融資金が実際にどのような使途に用いられるのかを具体的に確認した上で,同融資を実行すべきかを慎重に判断すべきことが当然に要請されていたというべきである。
しかるに,D信組は,本件第1融資につき,借入申込書に記載された漠然とした資金使途をそのまま受け入れ,E社に対して何ら調査や聴取をせずに1億円を注ぎ込んだのであって,同融資は,資金使途を把握しないまま実行されたという点においても不適正な融資であったといわざるを得ない。
(ウ) 返済財源の確実性及び回収可能性
本件第1融資の返済財源は,政府系金融機関からの融資あるいはエイペックス事業の運営利益とされ,E社ないしその代表者であるHが同事業の担い手となることが前提となっていた。
しかし,本件第1融資当時において,Hがエイペックス事業を担っていくとの客観的状況は何ら存在せず,また,E社に融資をする予定の政府系金融機関の目処も全く立っていなかった。
このような状況の下で,上記のような返済財源を期待して融資を実行したことは,甘い見通しに基づく杜撰な融資判断といわざるを得ず,本件第1融資は,返済財源の確実性が全く確保されないままに実行されたものであって,その実行時において,回収可能性に相当大きな問題性を抱えていたというべきである。
(エ) 担保の程度
本件第1融資は,融資額が1億円と多額であるのに,前記認定のとおり,融資先の業況,資金使途,返済財源がいずれも不安定,不確実なものであった。
それにもかかわらず,あえてこのような融資を実行するのであれば,返済が滞った場合に備えて,十分かつ確実な担保を設定しておくべきはむしろ当然のことであった。
しかし,本件第1融資を保全するための物的担保は,株式会社Gホテル当時に入担された小樽市yにある不動産しか存在せず,その時価もせいぜい1000万円程度で,少なくとも約9000万円が担保割れの状況であった。
また,保証人についても,そもそも人的担保は時代及び情勢の変化や個人的事情によりその価値が大きく左右され,特に本件第1融資のような多額の融資に係る担保としてこれに絶対的な重きを置くことは危険である上,保証人の1人であるHが信用調書に記載した住所の同人宅は,本件第1融資当時,既に差押後売却されており,これが責任財産とならないばかりか,同人の保証人としての適格についても疑念が生じていた。
このように,本件第1融資についての担保は,不十分かつ不確実であったにもかかわらず,D信組は,追加の担保を徴求することなく,また,保証人の適格性についても,同人らに住所地の不動産登記簿謄本を提出させるなどしてこれを詳細に検討することなく,本件第1融資を実行しているのであって,このような融資はリスク管理に対する認識を著しく欠いた危険な融資であったといわざるを得ない。
イ これらのことからすれば,本件第1融資は,これを実行した時点において,容易に回収不能になるおそれがあると予見し得るものであって,これを実行したことは,不十分かつ杜撰な情報収集,調査,検討に基づく不合理な融資判断に当たるというべきである。
そうすると,本件第1融資について,被告Bは,決裁権者たる理事長としてこれを実行し,被告Cは,理事としてその融資決裁を放置したのであるから,それぞれ善管注意義務違反の責任を免れない。
ウ そして,D信組は,被告らの上記善管注意義務違反により,本件第1融資の実行額である1億円を回収することができなくなり,同額の損害を被ったのであるから,被告らは,同額を賠償すべき責任を負う。
なお,たとえ上記損害の一部が将来において填補されることがあったとしても,担保不動産の時価や保証人の資産状況等からすれば,填補後の損害額が8000万円を下回ることはない。
したがって,被告らに対し,上記損害額の一部である8000万円の連帯支払を求める原告の請求は理由がある。
エ これに対し,被告らは,Hが政治家の秘書等を務めていたこと,将来エイペックスの経営者になると紹介されていたこと,Hに対する小樽市やA信組の風評が良かったこと,E社の株主や取締役には各界の著名人が名を連ねていたこと,Hが代表者を務めるV社及びW社のD信組に対する借入債務の返済は約定どおりにされていたこと,エイペックスは当時の社会的案件であり,これに対して政府系金融機関が融資する可能性は極めて高かったこと等からすれば,Hの信用性は十分にあり,その経済基盤も安定しており,本件第1融資の回収可能性は存在していたと主張する。
しかし,被告らがHを信頼したのは,その経歴や風評といった主観的な評価に基づくものにすぎず,前記認定のとおり,本件第1融資当時において,Hがエイペックスの経営者になることや政府系金融機関から融資を得ることについては,何ら具体化していなかったし,被告らが聞いたという風評等を裏付ける客観的事情はなかったのであるから,これを信じて1億円もの融資を実行することは,安易で軽率な融資判断というほかはない。
また,被告らは,本件第1融資を実行する際に,過去の融資に係る事後的な貸出金の流れを調査する義務はないと主張するが,このような考え方は,D信組の経営改善計画書(平成11年7月12日作成)に経営基本方針として掲げられている融資実行後の資産管理の事項に反するものであるし,前記認定のとおり,E社は業績不振にあえいでいた株式会社Gホテルと同一の法人であること,E社の示す資金使途には一見して問題があったこと等からすれば,本件第1融資を実行するに当たり,前記調査義務がなかったとすることはできない。
なお,本件第1融資がそれ自体重大な問題性を有するものであることは前記のとおりであるから,財務局の検査内容や金融政策のいかんによって同融資自体が正当化されたり,上記問題性に消長を来すことはないというべきである(このことは,次の(3)に述べる本件第2融資についても同様である。)。
したがって,被告らの上記主張は,いずれも採用することができない。
(3) 本件第2融資と被告らの責任
  次に,本件第2融資の実行に係る被告らの理事としての責任の有無(争点(3))について検討する。
ア 本件第2融資は,D信組が,かねてからの取引先であったJ社の販売部門を受け継いだF社に対し,土地仕入資金あるいは住宅建築の外注費等として合計1億4460万円を融資し,その返済財源として,土地売却代金や住宅金融公庫等からの資金を見込んでいたものである。
そこで,その融資判断の当否を判断するに当たっては,本件第1融資の場合と同様に,融資先の業況,資金使途の内容,返済財源の確実性,担保の程度等が重要な要素となってくる。
さらに,本件第2融資については,大口融資規制が問題となっており,その違反の有無及びそれを前提とした融資判断の当否が併せて重要であるから,以下これらの点について検討する。
(ア) 大口融資規制の違反の有無
J社は,平成11年4月の時点において,D信組からの借入額が4億円を超えていた。
これは,当時のD信組の大口融資規制の限度額を上回る額であったところ,同年度中は,銀行法13条1項ただし書による監督官庁(北海道知事)の承認を得たことにより,これまでどおり4億円超の貸出残高で取引を継続させることが可能であったが,平成12年4月以降は,監督官庁(金融庁長官)の承認を得ることができなくなり,このままの状況で取引を継続させることが困難な状況となった。また,J社は,D信組に対する預金債権が第三者によって同年3月16日に差し押さえられたため,D信組に対する既存債務につき期限の利益を喪失し,これを一括して償還しなければならない事態となった。
このような状況下において,J社の専務取締役であったLは,同月29日,J社と同一の住所地において,J社が建築した住宅の販売代理業者としてF社を設立し,以後,F社がD信組から借入をし,これをJ社の資金需要に充てるという形態で事業を継続させていた。
F社は,創業以来,J社以外の取引先との間で住宅建築,販売の継続的取引を行ったことがなく,また,F社に融資された資金は,即日,ほぼ全額がJ社の口座に振り込まれていた。
上記のとおり,F社が設立される前のJ社の借入ないし資金繰りの状況,D信組における大口融資規制の限度額の変遷とこれに対する監督官庁の対応,F社が設立された時期,J社とF社の人的,物的結びつき,F社の業務内容及び実績,F社からJ社に対する金の流れ等からすれば,F社は,専らJ社の資金需要のために設立された会社であり,大口融資規制の限度額以上の借入ができなくなったJ社の便宜を図るための会社にすぎないのであって,つまるところ,本件第2融資を含めD信組のF社に対する融資の実質は,J社に対する迂回融資にほかならず,大口融資規制の趣旨を潜脱する違法かつ悪質な融資であるといわざるを得ない。
(イ) 融資先の業況
本件第2融資は,形式的には新規に設立されたF社に対する融資であるが,前記のとおり,その実質はJ社に対する迂回融資であって,J社の資金需要に充てられていたのであるから,融資先としてF社のみならずJ社の業況も視野に入れなければならない。
前記認定事実のとおり,J社は,平成6年8月に返済財源を一部流用するなどして約定返済ができない状況に陥った経緯があり,これを受け,D信組は,平成7年2月16日,J社に対する今後の支援は不可であるとの認識を持つに至り,これまでの貸付額と預金とを対当額で相殺し,残りの貸付額については一本化して長期貸付に切り替えるとの措置を採った。
しかし,D信組は,同年5月以降,再びJ社に対して融資を継続するようになり,貸付残高は4億円を超えるまでに膨れ上がり,これについて手形の書替をすることによって延滞の発生を回避してきた。J社の平成11年の業況は,経常利益,当期利益,当期未処分利益ともマイナスの状態で,利益が見込めない状況にあった。
D信組は,このような問題性を多く有するJ社に対して融資を継続し,本件第2融資においても迂回融資により資金を供給していたのであって,融資先の業況に対する調査,検討が不十分である,あるいはこれを軽視していたというべきである。
(ウ) 資金使途
本件第2融資@及びAは,土地購入資金等を資金使途とするものであり,その申込みに当たっては,不動産売買契約書等が添付されていたものの,実際には,同融資を資金として不動産がF社に対して売却された事実はなく,いずれも実行日にJ社の口座に振り込まれており,資金使途が不適正であった。
(エ) 返済財源の確実性
J社に対する融資については,既に平成7年の時点において,確実な保全強化と返済財源が見込まれない限り,工事見合いによる運転資金の支援には一切応じないとされていたのであるから,返済財源の確実性は,J社ないしF社への融資を実行する上で,極めて重要な要素であった。
しかるに,本件第2融資@及びAは,土地売却代金が返済財源とされていたが,前記のとおり,そもそもF社がその対象となる土地を仕入れた事実はないから,その売却代金をもって返済財源とすることはできなかった。
また,同融資BないしFは,住宅金融公庫等からの融資が返済財源とされていたところ,D信組においては,既に平成6年の時点で,工事代金はあくまで返済財源にすぎず,他金融機関取扱いの住宅金融公庫等からの融資を見込んでの見合融資は避けるべきとされていたのであるから,これを返済財源として融資を実行することは,D信組内部の確認事項に反し,不適切であるというべきである。
このように,返済財源は不確実,不適切なものであったにもかかわらず,D信組は,十分な検討をしないまま本件第2融資を実行したのであって,その回収可能性は低いものであったといわざるを得ない。
(オ) 担保の程度
前記のとおり,D信組においては,既に確実な保全強化が見込まれない限りJ社に対する融資は差し控えるべきとの方針が打ち出されていたところ,本件第2融資当時のJ社の業績は振るわず,4億円超の負債を抱え,手形の書替によって支払延滞を免れていた状態にあったにもかかわらず,D信組は,何ら担保を徴求することなく,本件第2融資を継続的に実行したのであって,返済が滞った場合の回収方策の検討が極めて不十分であった。
イ これらのことからすれば,本件第2融資は,これを実行した時点において,回収不能となるおそれがあると容易に予見し得るばかりか,大口融資規制を潜脱した違法な融資であって,前述したような,零細企業や勤労者の経済活動を保護し,もって地域経済の安定と発展を図るといった信用組合に期待されている役割を考慮したとしても,その限度を超えるものとして許されないといわざるを得ず,これを実行したことは,不合理な融資判断に当たるというべきである。
そうすると,本件第2融資について,被告Bは,決裁権者たる理事長(同融資@ないしB)あるいは理事会の構成員(同融資CないしF)としてこれを実行し,被告Cは,理事会の構成員としてこれを実行し(同融資CないしF),あるいは理事としてその融資決裁を放置した(同融資@ないしB)のであるから,それぞれ善管注意義務違反の責任を免れない。
ウ そして,D信組は,被告らの上記善管注意義務違反により,本件第2融資の実行額である1億4460万円から既払額1000万円を差し引いた1億3460万円を回収することができなくなり,同額の損害を被ったところ,前記のことからすれば,本件第2融資を実行した時点において上記損害は発生したということができ,今後これが填補される可能性もないから,被告らは,同額の賠償責任を負うというべきである。
したがって,被告らに対し,上記損害額の一部である1億円の連帯支払を求める原告の請求は理由がある。
エ これに対し,被告らは,F社はJ社に対する既存債務の回収をより多く図る目的で設立された会社であって,大口融資規制を潜脱するものではない,本件第2融資を実行することにより,J社からより多くの既存債務の回収を図ることができたなどとして,本件第2融資の合理性を主張する。
  しかし,F社がJ社に対する迂回融資の経由先として設立された会社であることは,前記認定の事実関係から明らかであるし,また,本件第2融資の実行により,J社の既存債務をより多く回収することができたとの事実を示す証拠はなく,理事会等においてこのような検討がされたとの形跡もうかがわれない。
したがって,被告らの上記主張は理由がない。
また,被告らは,本件第2融資A,E及びFについて,いずれもF社の手持資金により返済済みであるとして,その損害は発生していないなどと主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,D信組は,平成12年3月31日にF社に対する融資を開始してから,わずか約9か月の間に,貸付額が大口融資規制の限度額にまで膨れ上がり,その間,F社からD信組に対して既存債務の返済は一切されていなかったところ,これ以上の貸付額の増加が許されない状況になって,初めて新規貸付とともに既存債務の返済がされるようになり,貸付残高もほぼ変化なく推移していったのであって,このような借入及び返済状況からすれば,既存債務の返済はこれに相当する新規貸付に切り替わっていったというべきである。
なお,被告が主張するように,本件第2融資A,E及びFについては,これらの返済後に新規貸付がされており,一見するとF社の手持資金によって既存債務の返済に充てられたようにもみえる。
しかし,前述したとおり,F社はJ社に対する資金需要を充たすために設立された会社であり,両社は一体として捉えるべきであるところ,本件第2融資A,E及びFの返済は,同時にJ社の手形の決済でもあり,同決済日においては,両社併せての返済資金が必要であったにもかかわらず,実際には第三者からの工事代金等の支払がこれに満たなかったことから,F社がD信組から新規貸付を受け,これをJ社の手形の決済に充て,F社は第三者からの支払金をもってD信組に対する同融資A,E及びFの返済に充てていたのであって(甲64,65,81の1ないし22),これをもって上記各融資の返済がされたと評価することはできない。
したがって,被告らの上記主張は,採用することができない。
(4) 被告らは,経営判断の原則などとして,信用組合には,小規模中小企業や勤労者の経済活動を支援することにより地域経済の安定と発展を期するという一般私企業と異なった公益的要請があり,その理事にはこれに基づく総合的判断をすることが期待され,そこには広範な裁量があるべきことを強調する。
  しかしながら,以上に検討してきたように,本件各融資は,上記の要請に基づく総合的判断及びそこで認められるべき広範な裁量によっても正当化する余地のない,杜撰あるいは不適正な融資と評するほかはないのであって,本件各融資についての被告らの責任がその主張に係る経営判断の原則等によって減免されるものとは考えられず,これに反する被告らの主張は理由がない。
3 結論
以上によれば,原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,65条1項ただし書を,仮執行の宣言について同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

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